理事長挨拶

 環境問題が深刻化するなか、いま世界では、健康で安全・快適な室内環境と省エネルギー・省CO2をどのように両立するのかが大きな課題となっています。特に我が国では、2011年3月に起きた東日本大震災のあと、安定供給でありながらも低炭素化を基軸に据えて、再生可能エネルギーへのシフトなども視野に入れた多様なエネルギー需給のあり方を示すことが急務になっています。

 建築や都市では、空調システムや地域冷暖房設備に代表される、エネルギーを多消費する建築設備システムや都市のエネルギー供給システムの省エネルギー・省CO2が急務です。そのためには、これらの環境性能とエネルギー性能を「要求性能」としてまとめ、それに沿ってシステムの性能や品質の確保と最適化を徹底し、ライフサイクルに亘って健全な性能を維持することが不可欠です。

 この実現には、新築建築、既存建物の両方に「コミッショニング」を適用することが欠かせません。新築建物のコミッショニングとは、建物のオーナーと使用者が求める室内環境、ならびに省エネルギー・省CO2性などに関する要求性能を明文化し、これを実現するために企画・設計・施工・引渡しという各フェーズを通して関係者に対して助言と確認を行い、必要な場合には独自に設計内容や実システムを検証して意見を述べ、引き渡し時には機能性能試験を実施し、運用段階で要求性能が達成されるように運転マニュアルを整備したりオペレータの教育訓練を実施したりすることです。コミッショニングにおいては、要求性能を明文化することだけではなく、その要求性能をどのように達成したかを記録文書として残し、要求性能実現の過程を関係者全員で共有することが重要視されています。

 既存建物のコミッショニングは新築建物とは少し異なります。既存建物は、多くの場合、建物の使われ方が当初の設計与条件とは異なるため、設計条件をそのまま当てはめて環境性能やエネルギー性能の改善を目指すことは現実的ではありません。また、通常、システムの一部が改修されたり制御設定値が変更されたりしていて、竣工時の状態がそのまま維持されている建物は希です。そのため既存建物のコミッショニングでは、現時点で求められる要求性能を新たに作り、それを達成するための調査・提案と調整・改修を行い、最後に機能性能試験をして引き渡します。場合により、性能改善のために調査・提案と調整・改修が繰り返し行われることも既存建物のコミッショニング過程の特徴です。既存建物のストックは膨大であることから、このコミッショニングの重要さは年々増しています。

 当協会では、大学、企業、自治体、諸団体などから、コミッショニング手法の整備のための調査・研究、コミッショニングのアドバイス、社会的に先導するコミッショニング業務などを受託し、我が国におけるコミッショニングをリードし続けています。おかげで最近、当協会に、コミッショニングを実施してほしい、アドバイスを受けたい、適切な事業者(プロバイダー)を紹介して欲しいなどという依頼が増えています。既に東京都では新築建物のトップレベル事業所の認定においてコミッショニングを実施しているかどうかが評価対象になっていますし、最近、これに既存建物のコミッショニング(レトロ・コミッショニング)も加わりました。このようにコミッショニングは確実に社会に広まりつつあり、社会貢献としての当協会の活動がますます重要になっています。

 コミッショニングの実施には特有の技能と経験を持つ技術者が必要です。そこで当協会では、コミッショニングに必要な技術と知識を体系化し、こうした技術者の資格認証を提案してきました。既に2009年度から性能検証技術者(CxPE)の資格認証を開始し40名ほどのCxPEを輩出しています。また、2012年からは登録制度による性能検証専門技術者(CxTE)の運用を始めました。こうした技術者が増えることで質の高いコミッショニングが広く社会に流布し、ひいてはコミッショニング技術者の社会的なステータスが向上しその雇用機会の拡大にもつながると考えています。

 当協会は、空気調和・衛生工学会による2004年の「建築設備の性能検証過程指針」の制定を機に、コミッショニングの重要性を社会に訴え、その技術と実施体制を整備・確立するために、同年、有志によりNPO法人として設立されました。以来、当協会の活動は、コミッショニングの普及啓発活動、技術基盤整備ための先導的なコミッショニング業務の受託、コミッショニングのあり方やコミッショニングに利用する文書ツール・コンピューターツールを開発するための調査・研究の受託や自主研究、外国の標準規格・基準文書の翻訳、当協会の標準コミッショニングマニュアルの作成など、幅広い活動を実施し社会に貢献してきました。また、国際的な協働活動として、IEA(国際エネルギー機構)のAnnex活動、米国NCBC(全米コミッショニング会議)などへの参加、環太平洋ビルコミッショニング会議の開催や日中環境技術交流などを行い、コミッショニングを通して国際交流にも貢献してきました。

 以上のように、当協会はコミッショニングに関わる産業や諸団体との協力と緊密な交流を通して、これからもコミッショニング事業を展開する個人・企業・団体を支援するための活動を推進することにより社会に貢献して参ります。どうか設立の趣旨をご理解のうえ、広く皆様の温かいご支援を賜りますようお願い申し上げます。

特定非営利活動法人 建築設備コミッショニング協会

理事長  吉田 治典

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