発注者の声

ファーストペンギンのつぶやき

京都駅ビル開発 常務取締役
髙浦敬之

京都駅ビル熱源更新プロジェクトをコミッショニング手法によって進めています。京都駅ビルという建物の公的な性格や、コミッショニングプロセスを採用することに対して国の補助金をいただいていることもあり、発注者としてなぜこの手法を用いたのか、実際にやってみてどうだったのかということを広く発信し、その結果低炭素社会の実現に向けて少しでも寄与できればと考えています。

このようなプロジェクトで発注者からの発言というのが少ないこともあり、いろいろなシンポジウムでお話しさせていただき、その後の懇親会でも意見交換をさせていただいていますが、そこで出てくる話は(1)何故コミッショニングを導入したのか? (2)上司をどうして説得したのか? (3)やってよかったか? ということにみなさん関心があるようです。簡単に答えを書くと、(1)偶然、(2)出来なかった、(3)大変よかったとなります。もう少し詳しく書くと(1)従来のやり方では京都駅ビルが必要とする大幅削減は実現できないと感じていて、諦めずにどうすればいいかを探し続けた結果コミッショニングに繋がった。 (2)最大のハードルは親会社だったが、今までのやり方がなぜダメか、コミッショニングならなぜ良いかという点は理解されなかったが、コミッショニングの結果エネルギー費の大幅削減ができるということで了解が取れた。分かりやすく言えば、老朽取替えの費用と今回の大幅削減プロジェクトの費用の差額を、エネルギー費の効率化により8年で回収するというスキームが評価されました(図1) (3)よかったところは多数あります。技術的なものはBSCAが開催されるシンポジウムや学会の報告で語られるとおもいますので省略し、私は今回の成果をもとに外国の雑誌に以下のような発表をすることができました。


図-1

―以下、中国 清華大学 雑誌「世界建築」掲載予定稿より―

(京都駅ビルが抱える課題と取組み)

京都駅ビルが完成して20年が経過した。この間の社会の変化は大きく、従来の感覚なら50年分の変化に匹敵するという人もいる。その変化とはどんな変化であったのか?
日本の建築物の主要構造部は木材であり、火事、地震、洪水などで街が新しく再生された。そのため日本人は建物をストックとしてではなくフローとして受け入れていたのではないかと思う。経済活動が拡大する過程では、スクラップアンドビルドの考え方と建物をフローとして考えることは違和感なく共存しえた。
京都駅ビルの国際コンペは1990年に実施され、当時の日本はバブル経済の状態であり、この状態が続くと思っていた日本人は多い。やがてバブル経済が終焉した後、京都駅ビルは1997年に完成したが、その年は京都でCOP3が開催され、京都議定書が締約された年でもあった。ビルが完成した時が社会の大きな転換点であったということから、新たな課題に対処する必要に迫られることになった。
このビルは経済合理性の観点からは決して実現できない豊かな空間を有している。社会が持続可能な方向へ舵を切る前の、経済活動の拡大が未来も続くと考えられた時代だから実現しえたと考えると、もう一度このような建物を作ることは非常に困難である。そのような理由からこの建物を長く使い続けるという、今まで日本ではあまり考えられたことのない取り組みを始めることになった。鉄道ターミナルとしての建物は文化財として単に保存することで延命するのではなく、民営化された鉄道の重要な収益源の一つとして経済合理性を満足し、また、常に「現役」で社会の変化に対応する必要がある。良い建物を守りながらハードとしての機能や建物自体の存在理由において社会の変化にキャッチアップしていくことが必要となった(図2)。


図-2

新たな価値観の社会において京都駅ビルを100年維持するために建物のハード面で取り組んでいることは大きく3つある。気候変動問題への取組み、災害時の事業継続性、社会貢献としての空間の活用である。これらの3つのテーマを特別なプロジェクトを作るのではなく、設備の老朽取替えというチャンスを活かしつつ、企業としての経済合理性にも合致する方法で取り組んでいる。
現段階での具体的な成果としては、建物を使い続けながらビルのエネルギーの半分を使用する空調熱源システムをコミッショニング手法により全く新しいシステムに変更し、CO2の排出量を48,000tから28,000tへと削減した。ビル全体で30%、熱源単独では60%の削減となる。京都駅ビルは京都市全体のCO2排出量の0.72を排出していたので画期的な成果である。(後略)

―(引用以上)―

発注者としてもう少し実感のある説明をすると、次の図3は、従来の私たちが行っていた進め方(松竹梅の竹)とコミッショニングを導入した進め方(松竹梅の松)をプロジェクトのハードルとなりがちな素人に向けて説明するために作ったヴィジュアルですが、その中で「投資決定」「工事契約」という2つの場面があります。「松」のほうは現状のデータをきっちり調査し、それを活かした設計になっているうえに投資決定、工事契約でお金が理由で性能を犠牲にすることが無ありませんでした。(「竹」ではここで性能を犠牲にすることが多々あります) その後も予定した性能を追い求めるなかで、「竹」よりもはるかに高いレベルでの検討が行われました。発注者にとってお金の問題は一番頭の痛い問題で、最大のピンチです。それをいろいろな形での妥協によって乗り越えるしかなかったのが、コミッヨニングを導入していたから妥協せずに進められたということが、発注者の苦しみを身に染みて知っている者として極めて感慨深い経験でした。


図-3

最後に発注者について考えていることを述べます。施主という言葉は上から目線でよくないと言われますが、施主が発注者になって目線も下がりましたが志も下がったのではないでしょうか。お施主様という言葉にはノスタルジーとともにレスペクトの感情もこもっているのではないでしょうか。京都駅ビルのプロジェクトで「高浦さんはよくこんなメンバーを集められましたね」と言われたことが多々ありました。確かにこのプロジェクトは特別なプロジェクトであったと思います。設計者も施工者もよく頑張ってもらいましたし、実際に担当している技術者は、立場は違っても、やはり「竹」より「松」なのだと思うから最後までギブアップしなかったのではないかと思います。高い成果を出すという面では、現在の発注者の技術力は昔に比べて低くなっていると思いますが、今回のプロジェクトのような「場」を設定することは発注者にしかできないことです。きちっとしたものを作る、あるいは技術の進歩という点からみて、現在の発注者はプラスに働いていない場合も多いのではないでしょうか。私の後にもBSCAのこの欄に施主として執筆される方が続くことを願っています。

新長崎県庁舎のコミッショニングの有用性について

長崎県 総務部県庁舎建設課建設班
佐藤晃平

公共建築物における、より一層の省資源・省エネルギーの推進やライフサイクルコストの低減に対する要求が高まる中、とりわけ財政状況の厳しい長崎県の新庁舎建設にあたっては、率先した取り組みを行う必要性がありました。そんな中、設計プロポーザルにおける設計者からの提案で、コミッショニングの存在を知り、この手法により一般的な設備を採用しながらも、最大限の効果を発揮できる可能性を感じ、実施に至りました。

設計フェーズは、まず発注者が求める設計要件をまとめるため、旧庁舎のエネルギーデータを集め、現状を把握することから始めました。分析結果を受け、一次エネルギーの削減目標など発注者の望む新庁舎の姿を、具体的な項目や数値に落とし込む作業は、発注者だけでは非常に困難な作業であったと感じます。

設計期間中、ほぼ毎月開催されたコミッショニング会議では、コミッショニング管理チームと設計者を中心に熱い議論が交わされました。設計内容がブラッシュアップされていく様子を目の当たりにしながら、設計内容に至った経過や根拠を全て文書として提出いただいたため、空調設備の仕様の決定等について発注者が迅速に意思決定できたと感じています。また一般的な設計では求めていない、温熱環境やエネルギー消費のシミュレーションも実施いただくことで、設計精度を高めることができました。

平成30年1月に無事開庁をむかえた新庁舎は、すぐさま運用初年度の機能性能試験に移行しました。季節毎に実施する1フロア全体を対象とした環境測定や、中央監視装置やBEMSで収集した膨大なデータ分析を実施いただき、設計時に要求した性能が発揮されているかどうかを確認します。

機能性能試験の結果を踏まえ、2年目以降、理想とする空調運転が達成できるよう軌道修正を行いながら、基本理念に掲げた新時代環境共生型の庁舎を目指したいと考えています。

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