コミッショニングレターVol.18 No.7(7月号)

2021/07/02掲載

第1回APBCx2021開催報告

                                                                                                                                                                                                                                    副理事長 赤司泰義(東京大学)

 2021522日(土)にBSCA主催で第1APBCx2021をオンライン開催しました。APBCxAsia Pacific Building Commissioning Symposiumの略ですが、その目的は、アジア・太平洋地域の国・地域が取り組んでいるCxの事例、研究、事業、規制などの情報を共有し、それぞれの商習慣に適したCxの仕組みの構築や普及につなげ、建築物の省エネルギーや脱炭素の実現に寄与することです。今回のAPBCx設立に至った理由には、2019年に京都大学で開催されたCx国際シンポジウムにて、米国のみならず中国や香港の研究者とも継続的な情報交換の必要性が共有されたこと、中国でもCx専門委員会が創設されたこと、別のCx国際会議(香港)にBSCAが参加要請を受けたことなど、アジアにおいてCx推進の機運が相当に高まっていることがあげられます。さかのぼれば、中原信生先生が主導されていたAPCBCAsia Pacific Conference on Building Commissioning)がありますが、その精神を引き継ぎながら、参加国・地域がシンポジウム開催のホストをローテーションで受け持つ共同運営とし、インフォーマルで無理のない形で継続することを念頭に、“第1APBCx”で改めて出発することにしました。今回の共催は、China Professional Committee of Building Commissioning and Operations(中国)、Research Institute for Smart Energy, The Hong Kong Polytechnic University(香港)、School of Energy and Environment, City University of Hong Kong(香港)、HK Institution of Engineers(香港)ですが、次回2023年の第2回は中国の学協会が主催になり、BSCAが共催になります。

さて、シンポジウムの発表内容等は割愛するとして、私が感じたことを述べさせていただくと、一つは中国の大きな変化があげられます。2017年にCx専門委員会(China Professional Committee of Building Commissioning and Operations)創設、2019年に第1Cx National Conference開催、2020年にCxスタンダード出版など、急速にCxが進展していることが改めてわかりました。米国に留学し、LBNL10年近く勤務された方を中心に中国のCx体制等が整えられつつあるようで、今後のCxの活発化を予感させるものだったと思います。もう一つは香港について、もともと英国式TABの素地があったとはいえ、Cxに関しては日本より出遅れていたはずですが、今では既存建築物のRetro-CxRCx)が普及していることがわかりました。新築に対するCxは少ないようですが、既築に対しては費用対効果の高い、システマティックなプロセスとして、定期的にRCxを適用することが市場で認識されているようです。RCxを適用する市場のハードルは日本に比べると相当に低いように感じましたが、そのように普及できる社会構造や業態、制度等を理解し、参考にすることが必要だろうと思います。2050年に向けた今後の省エネルギーや脱炭素を考えた場合、建築ストックをどのように改修していくかは非常に重要な観点になります。その意味で香港の既築中心のCx普及は、既築の省エネ改修が大きな課題になっている日本に重要な示唆を与えるものと思いました。2年後のAPBCxで日本からどのようなCxの進展を発信できるか、今後日本でも一層の取り組みが必要だろうと思います。

今回のAPBCxは、本来は昨年度に対面で実施する予定だったものが、コロナ禍のために延期され、今年度やむなくオンラインで実施したものになります。オンラインの会議は集中力の継続という意味でどうしても34時間程度に制限せざるを得ず、実施日が土曜日で言語が英語(通訳なし)ということもあって、日本からの参加者数があまり多くはなかった点はシンポジウムの運営上、反省すべきところかと思いました。また、視聴者との質疑応答はもちろん、スピーカー同士のディスカッションにもやや難しさを感じましたし、休憩時のちょっとした会話や会議後の交流会が人的コネクションの構築にとって如何に重要かを改めて認識しました。次回APBCx2023は是非“face to face”で実施したいと思います。今後はAPBCxを通じた我が国のCxの発展と国際交流に寄与していきたいと思いますので、引き続きご支援のほどよろしくお願いいたします。

「Cxに関心を持つ者の集い」中止のお知らせ 

新型コロナウイルス感染拡大防止のため空気調和・衛生工学会大会(福島)の現地開催が中止となりました。(詳細は空気調和・衛生工学会ホームページをご覧ください)

空気調和・衛生工学会大会に合わせて開催を重ねてまいりました「Cxに関心のある者の集い」は昨年に引き続き開催を中止とさせていただくこととしました。

BSCA会員の方やCxに興味を持つ方と飲み、語らうことができる機会として楽しみにして頂いて方も多いと存じます。来年は3年分の盛大な「集い」にしたいと思いますので、ご期待ください。

空気調和・衛生工学会 学会提言 

 CPE 大石晶彦

 

空気調和・衛生工学会より「必要換気量算定のための室内二酸化炭素設計基準濃度の考え方」が発表されました。

室内人員に対する必要換気量算定のための基準として古くから「室内二酸化炭素濃度1000 ppm」 が用いられてきましたが、近年の外気二酸化炭素濃度の上昇により、室内人員に対する必要換気量は増加してきました。換気量の増加は建物消費エネルギーの増加に直結し、社会的要請である二酸化炭素排出量削減に対して相反します。

このような背景のもと下記の提言が出されました。

『必要換気量算定のための二酸化炭素の設計基準濃度(総合的指標)は 外気濃度+700 ppm とすることが望ましい。』

  詳細は空気調和・衛生工学会ホームページ(http://www.shasej.org/)をご覧ください。

現状、ビル管法規定の室内二酸化炭素濃度1000 ppmを守る必要がありますが、将来的に今回の提言の基準に変更される可能性もあると思います。地球環境を守るための大きな1歩だと思います。

 

活動実績 活動予定 他

◆協会活動実績 (2021/6)

2021年度 第2回 理事会  629日(火)WEB会議 

◆協会活動予定 (2021/72021/8)

2021年度 第2回 企画・運営委員会  726日(月)WEB会議 

◆編集者より

  コロナ禍において、社有建物の保守のために現地を訪れると、大抵の場合「窓開け」をしています。機械換気設備で十分な換気を行い、かつ二酸化炭素濃度計による状態監視まで行っている建物でも、目に見えて安心な「窓開け」という慣習に勝てません。当然、増エネルギーになる場合が多いかと思いますので、建物使用者に丁寧に説明を行うのですが、なかなか不安を払拭するまでに至らないことがほとんどで、疑問を抱いたまま勤務されている姿が容易に想像できます。何かいい手はないものかと悩み続ける今日この頃です。

◆編集長より

    空気調和・衛生工学会より二酸化炭素の設計基準濃度(総合的指標)に関する提言が出されました。ひと昔前には25m3/h/人であった設計換気量が、30m3/h/人になり、物件によっては40m3/h/人で設計することもある現在ですが、この提言にそった設計基準ができれば、外気二酸化炭素濃度の上昇に伴い無限に増え続ける外気負荷(夏の一番暑い時と冬の一番寒い時に発生する厄介者)を憂う必要が無くなります。記事3でも書きましたが、地球環境に対する大きな1歩です。

 

◆企画制作

 編集長:大石(BSCA企画運営委員)

 編 集:天野(BSCA企画運営委員)

 WEB版作成:小澤(BSCA事務局)

 

※本誌に掲載した著作物の著作権は、特定非営利活動法人建築設備コミッショニング協会が所有します。許可無く複写転用することをお断りいたします。

お問合せメール:bsca_mail@bsca.or.jp(@を半角に)

 

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