BSCA 理事長 中原信生
和魂洋才
今は死語化しているであろうか、和魂洋才という言葉があって、西洋の進んだ技術を取り入れて日本の精神構造に合わせたものとして行くことを言うが、勿論それがわが国の社会にとって有益なものに化せられねば意味がない。どだい西洋の考え方と日本の精神構造には合わない、だから洋才は洋魂で(洋魂洋才)と言う考え方もあるし、一方では日本の精神構造に凝り固まる国粋派もあるが、今日のグローバル化した社会の中で日本の文化を国際社会に調和させつつ、日本の伝統的美徳を生かすことを目的とすれば、現代的に解釈された和魂洋才を基調とすべきであろう。まして、体系化されたものとしては建築設備技術自体が矢張り洋才であり、その性能を適正化し検証すると言うコミッショニングと言う行為も洋才であるから尚更である。付け加えれば日本は近代技術に関してはアジアの先兵であるので亜魂の要素も必要であろう。然し亜魂は漢才に根源が有ったり、過去の植民地政策による洋魂化された国も有ったりするから決して和魂洋才を以てアジアの範となると思い込んではならず、むしろアジアの国々の事情や技術もまた洋才の一種と考えて和魂と調和させることが必要だからである。例えば香港では英国統治時代よりコミッショニングの概念は普及していたし、これに関する限り港魂洋才の方が先行していたと言う事実もある。
好循環
難しいのは和魂に調和させるときに洋才の本質を残し損ねて形だけ、或いは言葉だけ活用して低水準の和魂に変質させてしまう恐れのあることである。変質させたかどうかを見極めるには、そこに新しい価値が生まれたかどうか、これを私達の領域に持ち込んで見れば、そこに省エネルギーと環境保全の一般的価値が生み出され、而もそれは特定のユーザーの目的に合致したものとしても検証されたかどうか、である。そしてそのような価値を生み出す才覚を職能化してビジネスとして成立させ得た時に調和ある展開へと繋がり、好循環サイクル(virtuous cycle)に入る。ビジネスとして成立するためには需要と供給の調和ある創出が必要で、需要は省エネルギーと環境保全、要求性能要件に対するユーザーの自覚、それを後押しする社会的要請と行政の対応が前提になり、供給に関しては必要とされる職能が適材者によって満たされその業績、即ち生み出す価値が需要側の期待通りであると社会に是認された時であり、それが好循環が加速する。
三元化するコミッショニングの意味
前回述べたように、commissioning に米国型と英国型を定義し、米国型はcommissioning process と呼ぶことによって英国型のcommissioning から区別することができる。日本語では前者はコミッショニング過程或いは性能検証過程と呼ぶように提案して来た。或いは新築工事のコミッショニングと呼ぶことによって新築建物の企画フェーズから運転フェーズ受渡し後段階までの性能検証過程を指す、と言えば判り易いが、そうすると英国型は既設建物が対象かと言うことになりそうであるがそうではない。第一の型と呼べる英国型は主として新築工事の竣工時点に行われる試運転調整段階のcommissioning であり、その意味は第6 回の「既存のヨーロッパ規格におけるcommissioning の定義の例」に示した諸定義が示すように、手続き的には試運転調整ではあるが、その精神は「システムの立ち上げとチェックならびに設置後の機能の検証」「設備を静的な完成状態から既定の要件に沿った稼働状態に進める」、「事前に計画され文書化された一連の検査・調整と試験」、「プロジェクトの目的がビルの生涯に亘って達成され保守されることを確実にするようにデザインされたプロセスと手続きのシステマティックな適用」などから類推できる。そしてこの精神を全うさせるには竣工時点で初めて手をつける米国におけるTAB(試験調整,Testing and Balancing)では間に合わないからcommissioning の準備手続きを設計フェーズから行うべきである、と規定することによって米国型のcommissioning process に近寄ってきていることは前回述べた。
さて第二の型と呼べる米国型はこれまでに述べてきたcommissioning process のことである。これを米国型と決めつけたのはASHRAE における展開に基盤を置いたからである。そしてそのCA(Commissioning Authority)の役割を職能として満たす人材を認定する団体がBCA(Building Commissioning Association)である。第二の型については前回までの話の中で詳述してきたのでここでは重複しては述べないが、このプロセスを通して性能要件を実現する過程すなわち、第三者性を有するCA の率いるコミッショニングチームによって行われる性能要件規定、査閲(review)と確認(verification) 、文書化(documentation)と機能性能試験のプロセスを経ることがauthorize された commissioning としてLEED などでも応募資格の必要要件とされるほど重要なポイントなのである(※1)。
(※1)
以前にも述べたことであるが、米国のみならずキリスト教社会における検証とか(神に誓って嘘は言わないと言う)証言と言うことの重みはわが国民には生来的に理解しがたいのではないかと思われる。前回述べた9/11 commission report の前提である、真理を追究する立場からは過ちを犯したことの責任を追及することが目的では無いと言う考え方も、人間は過ちを犯すもの、悔い改める者は神に許される、と言う信仰に基づいている。認識の違いや法制度の違いがcommissioning process の実行に当たっての約束事に余程コンセンサスを得ておかなければ、とくに国際間取引の場合に問題となる。
然しながら、現実に米国においてコミッショニング技術者がcommissioningと呼んでビジネスとしている多くの対象はprocess のことよりも出来上がった建物のサブシステム(例えばVAV システムなど)の試験調整や既設の空調システムの熱源サブシステムで有ったりで、言うならば、これを以て第三の型とすれば、それはcommissioning process における機能性能試験(FPT、FunctionalPerformance Testing)の実行者としてCA の下で、或いは工事請負者の下で働く、個々のコミッショニング技術者(Individual commissioning engineer)或いはCommissioning Provider (Commissioning Agent とも言う)が行う、対象を試験・調整による性能検証行為に限定したビジネスであることが多いのも事実であり、これらの専門技術者の出自は、第一回目に述べたTAB 業界であるNEEB やAABC など認定するCommissioning Provider に所属する技術者で有ったり、Wisconsin University のコミッショニングのトレーニングコースを経て認定された専門技術者であろう。言いかえればこれらの専門技術者が、米国の設備生産システムの中で必然的に事前に養成され資格を獲得して来たものの集団があってこそ初めて、それを統括してビルコミッショニング(Building Commissioning)と呼ばれるCommissioning process を差配するCA 認証を大きな目的とするBCA の位置づけがあると言ってよかろう。さてこの第三の型を英国あるいはヨーロッパでは何と呼んでいるかであるが、筆者の知るところではcommissioning と明確に呼んだものは見当たらない。第6 回目にお見せしたBACS(BEMS)実装のフローチャートでも、竣工後の行為は「review and improve building performance」となっており、当初書き込まれていたcommissioning 成る用語が書き換えられた。またIEA のビルとコミュニティーの省エネルギーの研究活動委員会(ECBCS)でこの種の研究を扱ったAnnex25 のテーマはBOFDD(Building Optimization, Fault Detection andDiagnosis、ビル最適化と故障検知診断)であった。またヨーロッパ規格(CEN)やISO の諸企画にて定義される場合も、全て仕様との合致性の検証であって、新築時のFPT では適合するが、既設システムの性能検証には適合しない。なぜならこの場合は仕様とは当初仕様に過ぎず参考資料とはなっても検証の基準では無いからであり、実際の性能の同定、さらに進んで最適化が目的であるからである。このこともcommission(ing)と言う語の本来有する語義を示していると思う。日本語のコミッショニングに戻ろう。この三つの型は、いま国内の学会、業界或いは自治体の環境・省エネ行政で囁かれるコミッショニングの理解の実態を示していると思われる。
1.新築工事における当初性能検証過程(当初コミッショニング、新築工事のコミッショニング)・・米国(ASHRAE)型ビルコミッショニング
空気調和・衛生工学会制定 建築設備の性能検証過程指針に基づくプロセスをいう。実際にこの名称を以て実施されたプロセスはこれまでは数例に過ぎない。その普及の鍵はビルオーナー層のライフサイクル意識の向上と、米国のGSA(連邦調達庁、DOE(エネルギー省)、GBC(Green Building Council、グリーンビル協議会、LEED 制定の機関)などのような行政団体が制度として取り上げたような推進力が働くことである。第二の型との違いは企画フェーズにおける性能要件(OPR)の明確化と、OPR 実現に向けて(契約内容に従って)設計・施工・運転管理の各フェーズ・各段階における査閲・確認・文書化・機能性能試験を(契約内容に応じた)詳細に行うことで、検証の基準がOPR に有り、オーナーの望むような高品質のシステム生産物が期待できることである。
2.新築工事における試運転調整と一部の機能性能試験・・英国型のコミッショニング
従来日本においては詳細にわたる公的な、或いは業界規範の実行指針の無かった試運転調整及び受渡し段階で可能な機能性能試験の一部を(従来より入念に)行い、そのプロセスと文書化、検証結果を明確にするものである。これはオーナーから見ると従来から当然なされていたことで有るとの誤解を招くかもしれないが、ここでは厳密公平に判断し、従来の契約で慣習的に行われてきた内容に比して高水準な調整と検証業務が為されるのであること、より多くの付加業務と出費が必要であることをオーナーも工事業者も認識せねばならないであろう。第1 の型との相違は検証の基準が設計図書のみに有ることである。ここでは試運転調整マニュアル(※2)とツール、そして文書化のツールがフルに活用されねばならない。
(※2)
標準化への取り掛かりとして、空気調和・衛生工学会の試運転調整基準作成委員会(吉田新一委員長、当NPO 理事)にて策定作業を開始している。
3.対象システムの性能の確認と診断、性能回復等の指針の提案或いは検証
新築・既設に関わらず、システム、サブシステム、要素機器の何れかの水準で、必要に応じて試験調整、機能性能試験を行い、対象物の現況性能を同定し、不具合検知診断を行い、最適運転化への指針を纏めることである。新築工事が対象の場合は第1 の型の中でCA 或いは工事業者の要請で試験調整・性能検証を行うが、既設建物の場合はレトロコミッショニング過程(Retro-commissioning process、復性能検証過程)或いはリコミッショニング過程(Re-commissioning process、再性能検証過程)(※3)において実施或いは検証を行う。ここでは技術的なコミッショニングツールがフルに活用されることになろう。
(※3)
規模によってはプロセスと呼ぶ必要はないかもしれないが、継続性能検証過程における再性能検証もまたプロセスに則ったものであるとして一旦全てにprocess をつけて呼ぶこととした。
適用の実態とBSCA 資格制度との対応
以上で、読者が念頭に置かれているコミッショニングがどの範疇に属するかがお分かりになったのではなかろうか。誤解の無いように強調しておけば、第一の型が従来無かった新しい職能を定義しており、今のところ世界では米国のみが先行し一般業態として成立しており、わが国にも広めたいと学会指針が作られ、本協会BSCA が設立された。何故米国でか、と言うと、第一回に述べた歴史により、TAB(試験調整)業界が純粋に業務を限定して分離したために設計者や工事業者との交流は少なく、突如として受渡し段階になって現場に入って調整を行うことにより、設計・施工におけるミスマッチや不具合を軌道修正する機会が無かったことによるのであろうと思われる。第二の型は英国と一部のヨーロッパの国に、そしてEPBD(ビルエネルギー性能に関するヨーロッパ指令、Energy Performance of Buildings Directive)が普及すれば多分、より多くのEC の国々に普及するであろう。日本ではこれまでの試運転調整の内容に関する反省も大手ゼネコンを中心に業界で行われ、自主的に試運転調整の英国型コミッショニングへのレベルアップとビジネス領域の拡大を目指している。第三の型は米国ではレトロコミッショニングや継続コミッショニングにおいて多くの実例があり、州によって格差があるが州政府や電力会社等が積極的に採用している。日本ではコミッショニングとは言わずに省エネルギー診断、省エネルギーチューニングなどと呼ばれて国レベルに準じるシステムの中で行われたり、ゼネコン・サブコン業界の中で省エネルギー改修の前段として多くの場合(無料)サービス業務として実施されることも多かった(※4)。またこのたび東京都がこの種の技術者を要請するような環境行政を確立している。
当協会で制定し認証活動を開始したコミッショニング関連資格については3月号のコミッショニングレターに解説したが、その簡略表を本文の末尾に再掲する。この資格認証に関しては現在コース確立のための試行認証中であり、本年3 月に11 名に対してコミッショニング技術者CxPE 第一回認証を行った。本年度中には第2 回の試行認証と、第1 回の会員対象公開研修・認証活動を行う予定である。同時に、今年度中に表中のコミッショニング専門技術者CxTE_Bに対するに試行認証活動を行う予定である。 三元化する日本のコミッショニング活動との対応については大雑把にいえばCA,CxAC,CxPE,CxTE_A~B は第一型のコミッショニングプロセス業務に対応、CxPE[-/Cons]、CxTE_A が第二型試運転調整、機能性能試験業務に対応、CxPE[-/Ope]、CxTE_A~C が第三型のコミッショニング業務に対応する。 但しこの表はコミッショニングそのもののわが国での普及状態に合わせて柔軟に対応していかなければ活用価値が弱まる可能性がある。BSCA の協会資格であるから対応の柔軟性と、資格の高度性とは担保したいと考えている次第で、一昨年度以来、今年度中の試行研修でだいたいのめどをつけ公開募集に至るべく努力しているところである。
なおこのようなコミッショニング技術者の認証活動は当BSCA が嚆矢を切って実施しているが、社会的コンセンサスがより一層高まってより公的な機関で、或いは協力関係の下に、より充実した制度として発展し確立されることを望むことには吝かではない。
(※4)
言うまでもなく無料サービスと言ってもその経費は受注物件から得た利益が充当されるのだから純粋に無料と言うことは有り得ない。但し個々のユーザーごとに見ると、査定の厳しいユーザー(発注者)ほど無料サービスのメリットを享受し易い不公平さは生じる。このような社会的不公平をなくすこともコミッショニングの目指す効果であると言いたい。

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