寄稿記事 ( contributed-article) 2019年12月20日
「試運転調整とコミッショニングの機能性能試験に関する米国と日本の違い」 ~ ハワイ会員 Ryan Chang 氏の投稿記事の前説として ~
松下直幹(BSCA理事(Cx企画))
建築設備は、建築物の熱的性能、在室者・照明などの内部発熱、利用時間等の建物の使われ方の想定、ならびに過去の気象データから統計的に作成した外界条件などをもとにして熱負荷計算をし、それを基にして設計が行われ設計図書が作成されます。そして施工はこの設計図書に基づいて行われ、施工時に設置された機器・システムは、引き渡し前に施工者の責任で「試運転調整」が実施され、それを工事監理者が確認して建物オーナーに引き渡されます。
一般に、引き渡される設備が設計通りに省エネ性能を発揮することを確認(検証)し、不足があれば発揮するように調整するのは、竣工前に実施されるこの「試運転調整」の役目であると考えられています。しかし、設計された省エネ性能は、上記したように内部発熱や使われ方などを想定して定められたものであり、「試運転調整」時にこれらの想定条件を現実と合わせることはできません。また、竣工前の短期間で行う「試運転調整」時に、人為的に一年間の外界気象条件を作り出すこともできません。そのため、年間の省エネ性能はもとより設計条件下での省エネ性能でさえも実際に確認することは非現実的といえます。つまり、「試運転調整」でできることは、各機器の能力が設計仕様を満たしているか、とか、各機器が連携して作動し設計で指定した温度や湿度が保てるかなど、基本的な性能の確認までだといえます。まさに試運転と調整の範囲に留まらざるを得ません。
一方、コミッショニングでは「試運転調整」に加えて「機能性能試験」があります。「機能性能試験」は、コミッショニング(以下、Cx)プロセスの重要な作業の一つで、建築設備コミッショニングマニュアル(BSCA発刊)によると、「試運転調整」の完了後、原則1シーズン、つまり1~2年の期間で、設備機器のエネルギー性能(COP ・WTF・ATF など)、設備システムの制御性能(制御の安定性・妥当性など)、設備システムの総合エネルギー性能(エネルギー消費量・エネルギー消費原単位など)が、発注者の要件(OPR)に基づいて設計Cx段階で規定した要求性能を満たしてているかどうかを試験して確認し、不達であれば調整・改善する作業とされています。具体的には、BEMSなどで計測したデータを継続的に分析して性能を検証し(これが試験)、不達であればチューニング等の改善対応をして適正化する作業です。
当協会は、実際の省エネ性能の確認(検証)には、建設工事で行われる「試運転調整」とは別に、Cx業務としてなされるこの「機能性能試験」が必須だと主張しています。しかしながら「試運転調整」の作業とは、具体的に何をどういう手順でどこまで実施するのかが、現場によってもまた施工会社によっても、さらには施工担当者によってもその内容がかなり異なり、標準化もされていません。またほとんどの建物オーナーは、性能の検証と適正化は「試運転調整」時に行われていると考えていて、省エネ性能の検証は実はほとんど出来ていないというのが日本の実情だと思います。
さて、米国では、TAB(Testing, Adjusting, and Balancing、一般にTABと呼ばれる)と呼ばれる日本の「試運転調整」に相当する業務が、施工業務とは別の業務としてTABのライセンスを持つ技術者によって行われ、さらに竣工前に、これも施工業務とは別に機能性能試験(Functional Performance Test、FPTと呼ばれる)がCx業務として実施されます。ただ、米国のFPTは、強制的に冷・暖房時を想定した熱負荷を与えるなどの条件を現場で作り、数日の短期の試験として行われており、竣工後、建物の実運用開始後1~2年の長期にわたる計測データを分析・検証するという日本のやり方とは異なります。
こうした試運転調整(米国ではTAB)とCxの機能性能試験(米国ではFPT)の違いをふまえて、当協会のハワイの会員・Ryan Chang氏(TAB Engineering Inc. 社長)の投稿記事(題目:「TABとCxの違い」)を読んで頂きたいと思います。この記事では、なぜCxが必要か、TABで行う業務とFPTを含むCxの業務との違いについて、Cxが普及している米国人であるRyan氏の考えが述べられています。